2000年 かたつむりのおしゃべり
近年、演劇をやるより観る機会が多い。
電車を乗り継ぎ、汗をかきかき劇場へと向かう。
現在の生活環境からいって、空いた時間にパッとなんて観劇に出かけられる状況ではないので
前々からカレンダーに印を付けコンディションを整えたりする。
しかし当日、いざ芝居が始まってみると、意外と集中して観られないものである。
どうでもいい亊に目が行ってしまい、しょっぱなの重要部分を見過ごしてしまったり、
途中で「今夜何食べようかなァ」などと全然関係のない亊を考え出したりしてしまう。
ハッとして、己に喝を入れつつ、慌てて意識を舞台に戻そうとするのだが、
気付いた時にはカーテンコールが始まっていた亊もある。
よほどの集中力がないと、作品を理解し、その上感動なんて出来やしない。
演劇の観客というものは実に疲れる。舞台に立つより大変かもしれないと気付いた。
私は最近まで、演劇にはどうしていわゆる「演劇好き」といった観客ばかりしか入らないのだろうと、
疑問に思っていた。しかし、しばらく純粋な観客をやっているうちに、分かってくる。
様々な演劇を観るには、それなりの術とパワーが必要だということが。
だから多くの方々は、大画面で説得してくれる映画など(最近は映画でさえビデオに押されて苦しいが)
へ行ってしまうのだろう。
演劇の場合、役者の表情もクライマックスでアップになるなどということも出来ないし、せめて近くで
見たら恐ろしいというような大袈裟な舞台メイクで、少しでも顔を強調するのがセキのヤマだ。
音響やセットなど、色々工夫してみても、宙吊りでさえ驚く客ももういない。
上の空になる暇もない演劇があるとすれば、それは目に見えないモノが強力に観客を捕らえる作品だ。
作り手の熱いメッセージや気迫、魂の叫び、観客の息を殺す緊張感、張詰めた空気、熱気、・・・等々。
始まりから終りまで、これらに圧倒された公演の帰りは「やっぱ生はいーなァ」と心から思う。
これは、久々にジョッキで乾杯した時、鼻の下に白いヒゲをくっつけて叫ぶセリフと共通している。(?)
夏はもうすぐ!